日本一のカニの港
株式会社松本では、生産者や収穫者と直接コミュニケーションをとり、安心・安全で質の高い食材の確保を行っております。
~ 松本社長の食材の旅 ~
シリーズの6回目は、冬の食材としてはずせない かに の物語です。
隠岐の島の ばい貝に続いての研修は、翌々日の10月20日早朝から鳥取県・境港での見学と、JFしまね 常務理事の 福本匡弥さんを交えたディスカッションです。
この市場は鳥取県にありながら、島根県の県都・松江市に近く、入船する船も島根県の船が多く、必然的に水揚げも島根県が多いため島根県が管轄している市場です。
『スタバ』はないけれど『すなば』がある!!
鳥取県のイメージを全国で調べても 「砂丘」、「二十世紀梨」、「カニ」、この3つがキーワードで、最近ではスターバックスがらみで 『スタバ』 はないけれど 『すなば』 がある!!が話題になったのが目新しい話ですね。
フェリーの到着した境港市といえば、漫画家・水木しげる氏のふるさとです。ここは、すっかり境港の顔になった 「水木しげるロード」 があり、漫画に登場する妖怪たちがブロンズ像になって出没し、若い女性たちの撮影スポットとなっています。
しかし私らフードビジネスにかかわる身にとっては境港といえば 「かに」ですよね。
日本一の水産加工エリアが境港です
境港の平成 24 年の水産物取扱量は重量 114,258t(全国6位)、金額 16,262 百万円(全国 11 位)で全国でも有数な港です。
そのなかでも紅ズワイガニとズワイガニを合わせた 「カニの水揚げ日本一」 を誇っており、全国の約半数の紅ズワイガニが境港で水揚げされ、紅ズワイガニの加工では全国の8割のシェアを持っています。
我々が訪れた時は、11月6日のズワイガニの解禁にはまだ早かったですが、紅ズワイはカニかご漁で行われていました。
紅ズワイカニは身は甘みがあり、水分の多いカニです。そのため保存中に水分が抜けて身が少なくなることを避けるため、甲羅を下にして漁場から港に運ばれてきます。
境港の紅ズワイガニはそのままボイルや冷凍されて出荷されるほか、加工用の原料として冷凍のカニクリームコロッケやカニちらし寿司などカニ肉を使用する食品の多くに、境港の紅ズワイガニが用いられ、その食品工場の数は日本一で、当社の取引先の工場もこの周辺にまとまってあります。
また、紅ずわいの加工だけではなく全国でも有数の水産加工地であり、原料供給から生産、流通までが一貫で行える設備があったこらこそ、ベニズワイガニの加工基地として発展していったようです。
そしてそれにより原料の需要が高まり、水揚高も増加したという相乗効果があったということは重要な点だと思われます。
例えば、鳥取県以外で大量のイワシやサバが採れたとして、何百十トンもの魚を鮮度の落ちないよう加工する処理施設や食品工場は日本海側には境港しかなく、必然的に魚を満載にした船が境港を目指して集まってくるのです。
かって、実は今でも、能登沖では 「夏まぐろ」 が大量にとれるため、これを石川県の名産にしたかった県の肝いりで、金沢中央市場に荷を入れさせましたが、内蔵抜きなどの処理が追い付かず、付加価値を上げるどころか、逆に下げてしまいました。
いまでは能登沖や佐渡沖にとれた、一隻で何トンもの夏マグロを満載した船は日本海を縦断して、ここ境港まで何百キロも運ばれ、完璧な下処理をされ、 「境港・夏まぐろ」 として全国に出荷されています。
ここには腹を開くだけでも30人を超える職人やそれに倍する下処理をする人がいるのです。
明日未明にも石川の船がマグロを積んで入港してくると聞いた時には 「魚の場合は水揚げ港が原産地となってしまう」 のは分かりますが、それにしてもせっかくの 「能登まぐろ」 が 「鳥取まぐろ」 に変わってしまうのは、石川の人間としてはなんとももったいないことです。
漁業の未来は地道な仕事にある
さて、我々が訪れた時も、次から次へと満載のカニ漁船が接岸し、荷を下ろしていました。
紅ずわい漁はかご漁で行われ、カゴはロープに50m間隔で150個が取り付けられ、海底に約2昼夜沈めてカニが入るのを待ちます。漁具の長さは、約1万mにもなり、これを9セットで使用します。
一カゴが30K入りで、一回に何トンもの水揚げがあるそうです。
写真のようにあまりに多いかごの量なので、大漁じゃないですかと問いかけても、
ピークに比べて三・四割は水揚げが落ちているし、年々水揚げが落ちている。
今年は去年よりももっと悪い。単価が必然的に高いのは嬉しいけど、水揚げ量を自主規制しているからで、売り上げ全体としてははマイナスなんですよね。
それだけ資源が枯渇しているのですか?
・主漁場の大和やまと堆たいの周辺海域が暫定水域に含まれ、その前後から韓国漁船がどんどん入ってくるようになった。
・このため、トラブルが多発し、日本漁船は操業を断念に追い込まれるなど、締め出されてしまった。
・かつて、全体の9割を占めた同水域でのベニズワイガニの水揚げ量は今、3割に満たない。韓国漁船には実質的に操業規制がなく、その影響で資源が減っていることも大きい」
・しかも近くの某国は、こちらのかご網のズワイガニを漁具ごと奪っていく
・最悪、カニは我慢するとしても漁具までもっていかないで欲しいのが本音だ
・彼らは、それを再利用しているのだ。
・しかし、その漁具を利用しなければ生きていけない状況が分かるだけにあまりに切ない思いだ。
なんとも言葉にならない話が続きます。
しかし一杯二万円以上するズワイガニと比べて、30Kでその日の最高値が二万円と、安もの扱いされる紅ズワイも実は、高付加価値を持たすことは可能なんです。
例えば、関西では京都の城崎温泉の近くの香住漁港でだけ水揚げされるベニズワイガニを、「香住ガニ」 と呼びブランド化されています。
そのキャッチコピーは、
「養分が豊富な海洋深層水で育った紅ズワイガニは、身が詰まり、甘味が強く、みずみずしい。」
「茹でガニだけでなく鍋、焼きガニ、カニ刺しなど、松葉ガニ同様さまざまな調理法で味わえます。」
なぜブランドができるほど他との違いがあるのかは単純なことです。
境港の紅ずわいは五日間かけて漁がおこなわれます。当然ながら一日目の漁の紅ずわいと五日目の紅ずわいとは味もセリ値もまったく違います。
五日目は生で販売するもの、一日目は加工用とにわかれます。その差は倍以上のセリ値がありました。
「香住ガニ」 の売りは、出航したその日に帰ってくる新鮮そのものだという事です。
単純だけど決定的な違いが、そこに生じるのです。
4日目、5日目の漁の紅ズワイガニがないと加工業者は成り立っていけないのは確かですが、何とか住み分けて貴重な資源を大事にして欲しいものです。
また初セリという仕組みを使って値を上げるのではなく、付加価値を高めることによって自然に値が上がっていく。
それはお客様も納得し支持する価格であることが王道であり、関係者みなさんの幸せにつながっていくのではないかと思っているのです。