食育に使われてほしい小松菜・私考

小松菜が鈴なりに小松菜が鈴なりに。その成長スピードは速い

農家プロジェクトは、石川県内の農家と当社が深くつながり、そして農家と当社のお客様をつなごうというものです。

浜本さん、レポートありがとうございます。
 

~ 農家プロジェクト:六次産業化は一つの選択肢 ~

 レポートを受けての、野菜の未来と・河北潟の小松菜 の物語です。

日本中どこにもある葉物野菜の小松菜ですが、最近はおひたしだけではなく炒め物や鍋物の材料として注目されていて、NHKの「ためしてガッテン」にも取り上げられた注目の野菜です。
しかし農家が思うほど需要が盛り上がらず、取引価格は安定基調で低迷しています。

■ 先進的な農家だからこその取り組み

河北潟で大規模に小松菜を栽培している笠間農園さんから加工品を作れないかとの話があり、まずは小松菜のペーストを試作することにしました。笠間さんは自社でも小松菜のどら焼きやおはぎなどを販売するなど先進的な取り組みを行っている農家です。

農家を見ていると国が音頭を取って奨めている六次産業化に関して、成功している事例やうまくいっていない事例から、ある一定の法則があるように思えました。

■ 安心・安全の時代がやってきた。

まず、農家が加工に手を出すということは、そう簡単なものではありません。カップ焼きそばのペヤング事件にみられるように、いまは食品に対して安心・安全を求める時代となり加工の為の衛生基準がますます厳格になってきています。

食品衛生管理の国際基準HACCPは2020年から義務化(1年間の猶予期間あり)されるのにともない、相当な設備投資と教育が必要となり、片手間に加工を行うことは不可能となります。

例えば我々が扱う業務用の食品に特化した食品工場は新潟県や九州に数多くの工場があります。しかしそのほとんどが零細企業でHACCP対応のための設備投資は難しく、食品安全に対する認識も薄く、半分程度が廃業せざるをえないと予測されています。

大手スーパーや百貨店に加工品を卸すから必要になるのではなく、消費者に卸すから必要になるのです。あいだに入る流通業者にしても衛生基準をクリアーしていないところからの購買はできなくなります。

「汚いけれど美味いラーメン屋」という都市伝説は否定されるのです。

次に漁師にありがちな話ですが、農家も一攫千金のマインドを棄てなければなりません。
適正な需要と供給の関係が崩れ2割入荷が減ると末端売値は倍になるともいわれている世界ですが、加工業者や流通業者と農家が前もって仕切り値を決めた限り、その約束は守らなければなりません。

商売として交わした約束を守るのは最低のマナーです。農家自身の甘えで、いままではそのマナーがおざなりになっていました。多くの企業は1日1日の採算ではなく、年間の計画を基に企業活動を行っています。その約束が守られなかったばかりに企業の存続が危ぶまれる場合もあります。(前回、ニチレイフーズの事例として報告いたしました。)

それでは野菜農家の未来としての選択肢を考えてみました。

■ カット野菜が市場を席巻

いまどこのコンビニへ行ってもカット野菜はメインのお弁当の横に陳列されています。つい2~3年前まではカット野菜の売り場など影も形もありませんでしたが、その売り場のスペースはだんだんと大きくなってきています。

たとえばキューピー㈱の関連会社の㈱サラダクラブは、「カット野菜」の専門会社ですが、その売上げは平成11年の設立から平成12年3億円、13年8億円、14年19億円、15年45億円と倍以上の伸びを示し、19年には90億円、20年は110億円、29年250億と急成長しています。

平成25年の農畜産業振興機構の調査によると、カット野菜原料の市場規模は約600億円、カット野菜製造業の市場規模は約1,330億円、カット野菜販売の市場規模は約1,900億円と推計されています。
最初は飲食店や給食業者むけの業務用の供給に始まった流れは、一般消費者へと大きな潮流として流れ始めています。

■ 農家の逆襲が始まります

カット野菜は、その利便性や安定した価格、一人暮らしの増加など世帯人数の減少の為に少子高齢化を突き進む日本にとって間違いなく食生活を支える必需品となっていくでしょう。それには広大な面積で行われる大規模農業で、資金力のある企業がおこなう大規模なカット野菜工場が必要となり、個々の農家として対応できるものではありません。

しかしその某大手のカット野菜をペットにエサとして使うと見向きもしない事は一部に知られています。でも自分の台所でカットした野菜なら喜んで食べるのです。ドレッシングでごまかされないペットだけが真実を知っているのかもしれません。

だからカット野菜への対応策として、一段と旨味のある、力のある野菜を作り消費者に訴えなければなりません。しかもカット野菜工場がその欠点を修正してくる前までにです。時間的な余裕は限られています。

まずレストランなどの業務用として始めるのです。カット野菜工場が低価格を武器に最初にシエアを奪取してきた道を、こんどは逆に味を武器にして奪取するのです。
それには農家単独で取り組むのではなく、志を同じくする何軒かの農家と共に、信頼できる流通業者(例えば八百屋さん)とともに協調して取り組むのが一番の早道だと考えます。

確かにコストに厳しい目を見せる業務用は難しい道かもしれません。しかし業務用も二極化しています。安ければ何でもいいというところと、美味しさということが価格よりも優先する店も残っていきます。彼らの目にかない、価格よりも美味しさを選択してくれるような野菜を作れば、彼らから食べに来られたお客さまを通して、一般消費者へと続く一つの流れになっていく可能性があります。

今は多くのしがらみがあり変えられなくても「できる方法」を模索しなければなりません。変化は必然であり、停滞は廃業へと続きます。
ただ形だけがきれいで、ありきたりの野菜を提供するだけの青果売場が成り立たない時代は、そう遠くない時代に訪れるのは間違いありません。何をもって自社の特徴をだしていくのか、これが農家の課題となっていくのではないでしょうか。

■ 農家とのタイアップに進むには

前述の笠間農園さんによれば、取引先の和菓子屋さんでは自社で小松菜をフードプロセッサーを使って細かく砕き加工しているので、その手間を省く製品があれば、例えばパン屋さんでもパンを焼く時に便利じゃないかといわれていたそうです。

そこでその意見を取り入れ、当社の協力食品工場にお願いして冷凍対応で、かつ色を飛びにくくした裏ごしの試作品を作ってもらいました。
そしてその試作品を笠間さんと和菓子屋さんに見てもらい感想を聞くと、「濃縮かフリーズドライの方が使いやすい」という意見をいただきました。

再度、濃縮したペーストを試作して提案したところ、試作から本製造に進むには色々とクリアしなければならない課題が多く出てきました。
今後の資料としてそれを具体的に列記いたします。

■ 値段の安い時に出荷せず、加工品を作れるのが利点で前提ですが、

① 一回のペースト製造ロットが最低100Kとなり、農家にとっても、お菓子屋にとっても製造コストの負担が重い。

② 工場としてはこれ以下だと機械が動かず、手作りだとコストが跳ね上がる。

③ 一回分を使い切るのに時間がかかり、その間が不良在庫となる。

④ 出来上がり品の在庫を置く場所がない。倉庫・冷蔵庫を借りれば賃料が負担となる。

⑤ 製造加工費はいくらと即答を求められるが、実際に1ロット作ってみないと正確にはわからない。

⑥ むしろ割高になる可能性が大きいが、フリーズドライでの小松菜はどうか。

   等々の意見が出ました。

■ 商業ベースに乗せるという事は

全国に多くの協力工場がある当社が加工品を作るのは比較的簡単にできますが、農家の六次産業化への思いと現実とは、採算性を含めかなりの乖離があります。農家が加工品販売するのであれば販売する出口がしっかりと確保されていて、売れる見込みがあり、かつ必ず売るという確固たる信念がない限り、これ以上前に進めるのは難しいと実感しました。

となると、この話をすすめるには当社での販売も念頭に入れておかなければなりません。
笠間さんとのお約束なのでそのフリーズドライに関しても、長野県の野沢菜のふりかけ(フリーズドライ)を作っている工場2軒に問い合わせいたしました。

1社目の1回の製造ロットは1トン。2社目の1回のロットは100K単位ですが、年間のスケジュールが必要ということなので、単発で100Kだけというのは難しいと思われます。また長野県の食品工場となるとそこまでの運賃も発生しますし、まだまだ先が見えない状況です。
この結果を笠間さんにはお伝えしましたが、石川県に1社だけフリーズドライの加工ができる食品工場があるという事も付け加えさせていただきました。

NHKの「ためしてガッテン」で放送されたように小松菜は塩漬けにして冷凍すれば野沢菜の漬物と似たような味になるそうです。私はこの線から商品化へと進む道も捨て難いと感じています。
私としては、地産地消としての小松菜を生かしたい思いがありますので、この製造法で小松菜をおにぎりの具材として「河北潟・小松菜おにぎり」と銘打って販売すればどうかと米飯会社に提案することを考えています。

その際の一番の問題は、野菜に時々現れるセリウス菌のような芽胞菌の問題です。
これらの菌は100℃で加熱しても死滅することがなく食中毒の原因となります。
家庭のようにおにぎりにして、すぐその場で食べるのなら問題はありませんが、コンビニやスーパーに置くとなるとお客様が口に入れるまでに時間の経過があり、相当の安全性を確保しなければなりません。
しかし、もしこれがクリアーできれば「河北潟・小松菜おにぎり」はすごく売れる商品になると思っています。

また河北潟の小松菜を「食育」の一環として生かすことが出来ないかとも考えています。前例として、いま学校給食では加賀野菜・金時草の紫色のエキスを利用した「金時草のちらし寿し」が使われています。このように石川県やJAと協力することにより学校給食としての「小松菜ちらし寿し」「小松菜・菜飯」として取り扱われる可能性もあるかもしれません。

そうです。だからいま半歩!
私たちは、前に進んでみようと考えているのです。