お料理・五十嵐のプロローグは水辺の音

水辺のせせらぎの音や波の音、静かな雨音など、水の音を聞くと心が癒されると経験されている方は多いでしょう。

常に心地よいせせらぎの音が常に聞こえる通り 「せせらぎ通り」
その中でも香林坊109を始点とすれば、終点の貴船明神のすぐそばは、繁華街の喧騒も薄れ、木漏れ日の中に時間が止まっています。

空気中にはマイナスイオンが満ち、そよ風やせせらぎの中には心地よい「1/fゆらぎ」がみられます。私たちの心を癒してくれるのを実感できる恵まれた場所に新築されたその館はあります。

その非日常の世界へといざなう立地と、広々とした客席、高い天井、清潔な働きやすいオープンキッチンが、そしてなによりオーナーの手で作られるやさしい料理が見事にマッチして異次元の空間を作り出しています。

そう、その日の序曲は「お料理・五十嵐」へと導かれる、夕方のせせらぎの音が聞こえた時から始まるのです。そして二度目、三度目となるにつれて、その日常とはなれた別世界は深まっていくのです。

人が作り出す料理とは、自分の性格、生まれ育ち、すべてをさらしだす自分の分身。鏡。裸の自分をさらけ出すのが恥ずかしく、着飾った姿を出しているうちは、自分の世界を表現できません。

お客さんも、もう一度来たい、食べたいとは思いません。
決して心から満足してくれないのです。
素直にどうぞ今の自分のすべてを見てください。

いまはこれが自分の目一杯です。でも明日はもっと期待に応えます。
どうだ旨いだろう! どうだ美味いだろう! では、お客さんも疲れてしまいます。

料理にはその人の人となり、人格が現れます。
この壁を乗り切ったときに自分の世界が広がります。人を感動させる。また来たいと思わせるのはそういうことです。

刺身 : 2皿のうちのひとつ(料理は数が多いので抜粋です)

刺身 : 2皿のうちのひとつ(料理は数が多いので抜粋です)

今、予約の取れない店として評判になっています。
しかし彼には絶対に勘違いしてほしくないのです。安くてリーズナブル! たしかにそれも繁盛の一因かもしれません。でも、マグロが出た。のど黒が出た。だからお得!ではなく、金銭的なお得か、お得じゃなかった。ではなく。お客様が支払いをされた値段以上の価値があったかどうか。

使った食材の値段ではなく、相対的に満足されたかどうかなのです。
「また来たい」と思っていただけるかどうか?

お客様がお友達に、 「あの店、良かったよ!」 「あなたも行ってくれば」 と言ってもらえるかどうかなのです。決して「あの店、安いわよ~」ではないのです。

お客様もその繁盛の理由が心の中ではわかっているはずなのです。ただ世間の価値観の中から、言葉が見つからないだけと思っています。

お客様にもわかってほしいのです。「また来るよ」 「今度は友達と来るね」 これこそが料理を作るすべての者にとって最高の賛辞なのです。これがあれば彼らは日々精進し美味しいものを作る努力を惜しまないのです。

料理人を育てるのは、食べに行くお客様がすべてなのです。

焼物

焼物

アナゴ白焼き

アナゴ白焼き

さて彼とは彼が初めて料理の世界に踏み出したときからの付き合い。金沢の浅田屋さんを皮切りに県内外の料理屋で修行を積み奥能登の最果ての地  「ランプの宿」 で調理長を勤めて金沢に帰ってきてオープンしたのが去年の5月です。
実はその前年の秋にオープン予定がずれてずれて翌年になってしまいました。遅れた理由を本人は 「工事が遅れて・・・」 と言っていましたが、彼の作った城の中で彼の料理を食べてみて初めて理由がわかりました。

蒸し物

蒸し物

揚物

揚物

彼の料理は上手に考えてあります。
夜は5,000円からのコース料理ですが、アワビやウニのように高価ではない食材を使わなくてもお客様が満足できるように細かな工夫してあります。簡単に文字に書いてしまいますが、これは手間が倍以上かかります。アワビやウニならさっとそのまま出せば美味。むしろ何もしないほうが美味しいくらい。

しかし味がストレートに伝わらない高くもない食材は、一手間も二手間も掛けないと美味しくなりません。普段家庭で食べているなにげない 「食材を美味い」 と言ってもらうには、ひとつひとつの食材の奥に隠れた美味しさを引き出さなければいけないのです。これには相当の技術と仕込みの時間がかかります。
しかもコースの中で出る料理の数が馬鹿にならない。最低でも10品以上、下手をすれば14品が提供されます。
ただ数が多いだけなら素人でも出来ますが、お客様の満足を得るには一つ一つメリハリを付けて、全体を通じてひとつのストーリを形づけなければなりません。

酢の物

酢の物

これをこなしている彼が普通の工務店の店作りで納得できるわけがありません。さぞかし金は出さないのに口うるさい施工主だったと思います。
「ちょっとイメージと違うんですよネ。やり直してくれます。」  それが遅れに遅れた半年の理由でしょう。さぞかし悩ましきことが多かったでしょう。工務店の方々、お疲れ様でした。

食事 : 奥能登珠洲の土鍋で炊く銀シャリ

食事 : 奥能登珠洲の土鍋で炊く銀シャリ

さて小ロットで多品種のラインナップ。
口では一言で簡単にいいますが、日本料理は洋食や中華とは違います。ものすごい数の食器を出してきて、料理を盛って、洗わなければなりません。器の上に器を重ねたり、スプーンもあったり、10種類以上の料理を作るのですから洗う器はお客さん一人につき20ケ以上! 総計で毎日300ケ以上。

水菓子

水菓子

お客さんが引けた後に夫婦二人でもくもくと洗い片付けるその姿を想像しただけで、もう愛しくて愛しくて。特に初めてこの職業に付いた奥さんが、小さな子供の面倒も見ながら、旦那の面度も見て、店の手伝い、いや手伝いどころかホールの中心だから大変です。

五十嵐くん、大事にしてあげないかんヨ~。

8月29日 夜

五十嵐
石川県金沢市香林坊2丁目11−17
076-213-5251