新しくて古いビジネスモデル・角上魚類

小平店の店頭にて

小平店の店頭にて

今回の食材の旅は産地を訪ねるのではなく、少し趣を変えてお客さんと魚の販売店の新しい動きを調査してみました。「ガイアの夜明け」をはじめとして過去1年間で10本近くのメディアで取り上げられるようになった店の「角上魚類(かくじょうぎょるい)」を訪れてみました。

朝10時、店内の雑踏の様子です。

朝10時、店内の雑踏の様子です

2年前に角上魚類の小平店にお邪魔をしてその様子を勉強させていただきましたが、あまりにも生々しくてお蔵入りにしていました。しかしこのまま置いておくのが勿体なく感じていました。
そこであらためてネットを検索すると個人的なブログなどにも多く取り上げられていますし、時間が経過してほとぼりも冷めていますので、その様子を報告させていただきます。
関係者の皆様、失礼があるかとおもいますが、笑い飛ばしていただければ幸いです。

全店舗の中で売上トップのここ小平市の店では、ほとんどのお客さんは車での来店のため朝一番での視察でしたが駐車場に止めることはできませんでした。

一人勝ちをいく「角上魚類」

過去、社長ブログで「日本人は魚を食べなくなったのか」のタイトルで取り上げましたが、実は「食べたいけど食べれなくなった」と結論付けました。その理由は社長ブログを御覧ください。

水産物取り扱いの推移

水産物取り扱いの推移

確かに水産業界は、魚自体の単価は上がっているのに消費量は落ちているという「双子のマイナス」なのですが、次の表の角上魚類自体の売上の伸びを見ていると、それはいわゆる「木を見て森を見ず」」ということだと思います。(売上は多くのメディアに取り上げられています)

みなと山口合同新聞者の記事から抜粋

みなと山口合同新聞者の記事から抜粋

直近5年間の売上高は、2018年度が約327億円だったのに対して、2022年度には400億円を突破しました。5年前より122%も伸びています。しかも店舗数は関東圏を中心に22店と変化がありません。

店舗数を増やさずに売上を大幅に伸ばし続けています。

数字を見れば現実は残酷にせまってきます。少なくとも角上魚類の店がある地域では、魚離れどころかむしろ魚の消費量が増えていると想像できます。だとすると、いまの他の魚屋さんのやり方がどこかおかしい、間違っているのではないかとの疑問が生じます。
優良店をベンチマークして自店に取り入れるとき「うちにはできない!」「うちの地方は特殊だから!」との言う前に少しでもでも早く、一点でもいいので動くことが必要です。

売上を分析すれば

店舗の売り上げを単純な数式で示すと、

売上高顧客数(レジ通過客)×客単価」

ですので既存店の売上を上げるには、客単価を上げるか客数を上げるしかありません。
客数は既存客(リピーター)から流出客をマイナスして新規客をプラスしたものでし、客単価は商品自体の価値と売価構成の見直しによってアップできるのですが・・・。

今日の特売品に集まるお客さん

今日の特売品に集まるお客さん

今回の視察で分かったことは、恐ろしいほどの客数と買い物かごを何杯も抱えた買い物客の異常と思えるほどの点数に起因する客単価です。おそらく5000円は軽く超えていると思われます。

豊富な品揃え、安くて、美味しいが客を呼ぶ

売上好調な理由を推測してみました。
スーパーと比較すればわかりますが、仕入れからお客さんに販売するための仕組みが違うのです。

スーパーでは限られた魚種しか置いてありません。その日の天候、漁の量により、魚の値段は乱高下を繰り返します。昨日10円の魚が今日100円にも200円にもなります。安い時に買って安く提供する仕組みがスーパーにはありません。

この氷に並べるのもノウハウの一つです。

この氷の上に並べる並べ方もノウハウの一つです。

欠品を恐れるため「安定して仕入れできる魚」だけを選び、珍しい魚は購入しません。
売れ残っての廃棄ロスを恐れているからです。
廃棄の分を売価に上乗せしなければならないため決して安くはできません。全国から既存の流通網をつかって魚を送ってくるため、運送に時間がかかり、ショーケースに並ぶ間にも鮮度は落ちていきます。熟成が必要とされるマグロなどの太物とは違い、普通の生鮮品の魚の旨さは鮮度と比例するのです。

こんな記事も見つけました。角上魚類の創業者・栁下浩三氏が初めて新潟市にダイエーがオープンした時の視察の時、魚の値段を見て「自分が小売りの直販をすればスーパーの半値で売れる」と思いつき、業務用の卸から小売りへの業態転換を考えたといいます。

スーパーマーの仕組みは、全国の消費者に商品を届けるためには必要不可欠の仕組みです。しかしそれが結果としてお客さんに高い値段を強要し、魚を選ぶ楽しみを奪っているともいえるのです。

生の魚は丸のままカットせず販売しますが、下処理はサービスで行います。

生の魚は丸のままカットせず販売しますが、下処理はサービスで行います。

仕入先は、東京・豊洲市場と新潟・中央卸売市場のほか、新潟・寺泊をはじめとする地方漁協にバイヤーがいて、お互いが連絡を取り合いその日の一番お買い得の商品を買い付けます。寺泊で競り落とした魚は高速道路を使い8時間後の午前中には小平店に到着し、氷の上に並べられます。通常の商流とはまる一日以上鮮度が違ってくる仕組みなのです。

「日本一を目指す魚屋」と書いてあります。

「日本一を目指す魚屋」と書いてあります。

廃棄率は脅威の0.05%

またスーパーの鮮魚部門の廃棄ロス率は平均で7~9%前後と言われています。(全国スーパーマーケット協会の統計によると水産部門は8.1%)角上魚類の廃棄率は驚きの0.05%(がっちりマンディーにて)だといいます。この差額の8%が大きな荒利益となります。400億の8%ですと32億です。これがお客さんに還元されるのです。

刺身用にして。煮魚用にして。などのリクエストが飛び交います。

刺身用にして。煮魚用にして。などのリクエストが飛び交います。

スーパーが効率化のために、店頭にパックされた魚を並べるセルフ販売を勧めていったのとは逆に、角上魚類は最初から丸魚(切り身にしていない魚)の対面接客での販売です。

魚をさばいた順に並べてお客さんを待ちます

魚をさばいた順に並べてお客さんを待ちます

売り場でこっそりと見ていましたが、魚や貝類の調理方法を丁寧に説明していました。
また氷を敷いた盛り台の上に並んでいて、家庭でさばくには難しい魚は「どうしましょうか?」と希望を聞いて三枚におろしたり、切り身にしたりするという下処理のサービスを展開しています。
魚を並べた売り場の奥のバックヤードはオープンになっていて魚の身卸しをする人、切り身にする人、刺し身にする人など多くの人が働いているのが見え、劇場のライブのような感覚になります。

貝の美味しい食べ方を説明しているスタッフ

貝の美味しい食べ方を説明しているスタッフ

昔の町なかの魚屋さんはみんなそうでした。
年を取られたお母さんに『お嬢さん、この魚はこうやって食べるとおいしいよ』『三枚におろしとくね~』『隣の奥さんも買われたよ。今日は町内みんなサンマやで、町中煙いのヨ』などとお客様に説明したり、冗談を言ったり、魚の下処理したりして、買ってもらうのが昔の魚屋の流儀でした。

スーパーのようにお客様に説明しないで、ただ並べているだけでは、お客様も(食べ方が)分からないわけです。わからないから売れるわけがない。サバやイワシやサンマしか品揃えがなくなってくる原因です。

『これは刺し身にするとおいしいですョ』と言って、身下ろしして、刺身にしてあげたり、お客さんが家に帰ってすぐ焼いたりできる状態にしてあげる。鮮度が違うので、それを食べると美味しいから、また買いにきていただける。これらの細かな対応がお客さんを育て、リピーターを生んでいったのではないでしょうか。

また関東のお客さんはスーパの販売方法に早くから慣れていますので、逆に昔ながらの魚屋さんの販売方法が新鮮に感じられ、しかも店にはこれまで見たことも食べたこともない魚がたくさん並んでいるので食のワンダーランド、テーマパークのように感じて来店するのが「愉しみ」になるのだと思います。

高い人件費を上回る利益率

徹底した省力化、効率化で利益を上げるセルフサービスが主体のスーパーと比べると当然ながら、スタッフはざっと数えるだけで20名は見受けられ、バックヤード・経理を含めればもっと多くのスタッフが働いていると思われます。ですので人件費はそうとう多くかかっています。

日経ビジネスには、興味深い資料が出ていました。
「角上魚類の労働分配率(粗利益に占める人件費の割合)は約55%と、小売業の目安とされる約33%を大きく上回る。ではもうかっていないのかというと、むしろ逆だ。年間の売上高は394億円、経常利益は36億円(21年3月期)。営業利益率は約9%をたたき出す。イオンの1.8%(21年2月期)はもちろん、セブン&アイ・ホールディングスの6.4%(同)をも引き離し、隠れた小売りの優良企業といえる。」(日経ビジネス:人力でスーパーに勝つ利益率9%の魚屋チェーン 角上魚類)

中食市場に狙い!刺身と寿司、惣菜、お弁当

さらに刺身の一切れ一切れが大きくカットされています。噂では普通のスーパーが一切れ10gが標準なのに対して15gとの規定があるといいます。

刺盛り

キハダをメィンにした六種盛りの刺盛り

カンパチをメィンにした六種盛りの刺し身

カンパチをメィンにした六種盛りの刺し身

刺し身の盛り合わせは種類も多く、内容も多彩でした。

マグロの品揃えも多くありました。

マグロの品揃えも多くありました。

見た限りでは関東の人が好きなマグロは特に大きくカットされ、品物もよく安く感じられました。

新潟・中央市場から運ばれてきた甘エビ

新潟から運ばれてきたと思われる甘エビ

回転寿しよりも鮮度が良さそうな寿司の盛り合わせも多くありました。
敷地に余裕があれば、店の横に回転すしを展開すれば、すごく流行るだろうと勝手に新しいビジネスモデルを妄想してしまいました。

寿司も多彩なバリエーションで提供していました。

寿司も多彩なバリエーションで提供していました。

焼き魚用の味噌漬けの魚も大振りにカットされてそれだけでお腹がいっぱいになるボリュームでした。デパ地下に並んでいる味噌漬の魚と比べて大きさや厚みを考慮すれば約半値ですね。

ちょつとレベルは落ちますが、ここまではちょつと先進的なスーパーもやっているところはあります。しかし特筆すべきところは、これら生の魚の売れ行きをチェックしながら、売れ具合が悪いと見れば、焼き物、揚げ物、煮物などの惣菜への加工に回していき、営業時間中に全部を売り切ると「ガイアの夜明け」に出ていました。

でも実際は違うのです。売れ行きが悪いから加工するのではなく、最初からそれを目当てに来店するお客さんが朝の10時から集まっているのです。

ビツクリしたのは何も並んでいない売り場の前で、何人もの奥様が待っているのです。何事かと注視していると海老がたっぷり入った「天丼」が運ばれてきました。驚くべきことに1ケを買うのではなく5つも6つも、10ケ買っている人もいました。ありえない光景です。家族用には多すぎるのでママ友たちに配るのでしょうか。流石に個人情報の絡みがあるのでその様子はアップできません。(m(__)m)

めちゃくちゃ売れている天丼

めちゃくちゃ売れている天丼

揚げ物のボリュームもすごいです。

揚げ物、惣菜のボリュームもすごいです。

展示の仕方も独特で魚屋の惣菜を意識しています。

展示の仕方も独特で魚屋の惣菜を意識しています。

お弁当もいっぱいあります。特に銀ダラ西京焼き弁当がおすすめです。

お弁当もいっぱいあります。特に銀ダラ西京焼き弁当がおすすめです。

廃棄ロスが少なくなれば、はじめからロス分を考量して高くする必要もなく、お客様に安く提供できます。売れ残りの前日の魚ではなく、当日の新鮮な魚を加工に回せば、それだけで美味しくなります。刺し身、寿司、揚げ物、煮物と加工すればするほど多くの利益をいただくこともできます。

単品の粗利ではなく、全部をごっちゃにして粗利を考えれば、業務用でしか使われていなかった高い魚も利益を薄くして提供して、美味しさを広める事ができ次回への来店の種まきに使うことができます。それがまたお客さんの笑顔を呼んでいくのです。

お酒の肴も多くの種類が並んでいます。

お酒の肴も多くの種類が並んでいます。

無理やり奥さんに運転手として連れてこられた旦那さん用に酒の肴も多く並んでいました。奥さんは魚を吟味し、旦那さんは買い物の待ち時間に酒の肴を吟味する。上手く考えてあります。
だとすると敷地の横に酒のディスカウントストアーがあっても便利だな~と、またまた新しいビジネスモデルを勝手に妄想しています。

社長のインタビュー記事を見ると「4つの良いか」が強調されています。
『その「4つ」とは、「鮮度」「値段」「配列(品揃え)」「態度」です。魚屋ですからまずは鮮度が良くなければ話にならない。2番目に値段が安くなければいけない。3番目に、豊富な魚種が揃っていなければいけない。4番目に、スーパーのように店頭に魚を並べておしまいではなく、お客さんに対して我々販売する人間が気持ちよく受け答えをしなければいけないと。
この「4つの良いか」を作ってから40年が経ちますが、うちの店作りのベースになっています。私は魚の売り方にも原因があると思っています。スーパーのような売り方では、魚の種類も食べ方も限られてきますから、新たに別の魚も食べてみようとはならないでしょう。』(新日本ビルサービスHPから転記)

ぜひ、社長ブログで「日本人は魚を食べなくなったのか」を御覧ください。