
2025年2月28日北國新聞より「ニューヨークのシェフ達が金沢で料理研修」
金沢とニューヨークの間で実施されている料理人交換研修は、
日本料理の伝統と食文化を守り育てる事を目的とした料理店の若手の経営者達の集まり「金沢芽生会」と、日本の食文化を海外で推進することに専念するニューヨークを拠点とする非営利団体「五絆(ごはん)ソサエティー」との連携により2015年から始まった文化交流プログラムです。
途中コロナ禍により3年間の空白はありましたが2025年で10周年を迎える重要な取り組みになります。この研修では両都市間で相互に料理人を派遣し、互いの食文化や技術を学ぶ機会を提供してきました。
金沢の料亭からも若手の調理人が海を越えて
金沢市は2017年度から海外で活躍する料理人を金沢の料亭に受け入れるこの試みをバックアップしていて、これまでに海外の料理人あわせて22人が金沢市で研修を受け、金沢からは名立たる料亭の「つば甚」「浅田屋」「金城楼」「銭屋」さんなどから中堅の16人の日本人の料理人がニューヨークなどの日本料理店に派遣されて交流を深めています。
今年の2月22日からは新聞報道のように金沢市の料亭でニューヨークなどの和食料理店で料理長を務める5人が参加しています。
つまり「金沢の料理人はニューヨークのレストランで、ニューヨークの料理人は金沢で。互いの技術を学ぶ」というプログラムなのです。
この交換研修は金沢芽生会の高木慎一朗氏(銭屋の二代目主人)が会長だった時期に全国の芽生会で初めて導入されたプロジェクトです。高木氏は日本経済新聞のインタビューで、「中堅クラスの職人をニューヨークの一流レストランに派遣している」と述べており、「料理人がその店の調理場しか知らないのはおかしい」という考えからこの研修を始めたことが窺えます。
節目が変った金沢研修
今年は初心者や中堅クラスというのではなく、金沢へ料理を習いにトップクラスの調理長が5人も来ています。これはエポックメイキング的なことであり、世界の料理界の流れが、渦が大きく変わったと言っても過言ではないでしょう。
つまりこの日本とアメリカの双方向のアプローチにより、知識が両方向に流れ、両国の料理伝統を豊かにしてきた実績が認められたともいえます。特に、初心者ではなく、すでにそれぞれの施設で責任ある立場にある経験豊富なシェフをが訪れており、より洗練されたレベルの交流を可能として新たなステージに上ったということです。
日本料理を探求する
2025年2月23日に金沢に到着した彼らは、日本料理の基本的な材料を理解するため、醤油醸造所、酒蔵、地元の近江町市場への一連の訪問を始めました。そして研修の核心部分は伝統的な日本料理店のキッチンで行われ、熟練シェフの指導のもとで実践的な経験を積みました。
例えば参加施設の一つには、金沢の料亭である「銭屋」があり、オーナーの高木慎一郎氏はリーナ・チラドロ(40歳)とカイル・ゴールドスタイン(32歳)の2人のアメリカ人シェフを迎えました。
研修中、高木氏は厨房スタッフの階層構造、特定の料理に合わせた食器の慎重な選択、時には博物館級の器を使用した料理の提供など、日本料理哲学のさまざまな側面を説明しました。
この詳細なレベルは、プレゼンテーションが味と不可分であると考えられる日本料理の全体的なアプローチを示しています。

2月25日(株)松本に来てくれました。
25日には高木氏のアテンドにより近江町市場の当社を訪れてくれました。
左から順に私・松本信之、そしてレストラン・NOBU のラスベガスの調理長、同じくマンハッタンの調理長などとそうそうたるシェフ5人でした。
本格的な日本料理を世界的に促進するという幅広いミッション
アメリカのシェフにとって、この経験は日本料理の文化的基盤について深い洞察を提供しています。
先ほどの「銭屋」さんで研修を行ったカイル・ゴールドスティン氏(32歳)は市場で新鮮なウナギやスッポンを見ることで、自分が使用する食材の起源についてより深い理解を得たと述べています。
同様に、リーナ・チャルドロ氏(40歳)は、「日本食は料理だけでなく、食材や器に至るまで、細やかに仕上げている」と述べており、日本料理の総合的な美学と細部へのこだわりに感銘を受けた様子がうかがえます。
高木氏は研修において、時には博物館級の器を使用した料理の提供など、
日本料理のさまざまな側面を説明しました。この詳細なレベルは、プレゼンテーションが味と不可分であると考えられる日本料理の全体的なアプローチを示しています。
だからこそ彼女は、新聞社の取材において料理の提供における美的センスと技術の融合に特に印象づけられ、今後の仕事にこのレベルの洗練さを取り入れる意向を表明したものと思います。
金沢を世界の美食のまちに
日本のホスト側にとって、このプログラムは京都や東京のような大都市の料亭によって影が薄くなりがちな地域の料理・伝統をアピールする機会を提供しています。
高木氏は「日本料理は京都と東京だけじゃない」と述べ、
金沢の料理シーンにおける京都を代表する公家文化と江戸を代表する武家文化を融合したユニークな魅力、地元の市場や工芸的な食器メーカーとの緊密な関係を含む特徴を促進するための研修プログラムを継続したいという意向を持っており、この交流は本格的な日本料理を世界的に促進するという幅広いミッションにも貢献しています。
金沢とニューヨーク間のシェフ交換プロジェクトは、食という普遍的な言語を通じて行われる洗練された形の文化外交を代表していると言えます。料理専門家(トップ・シェフ)間の直接的な交流を促進することにより、このプロジェクトは言語的・文化的障壁を超えた深い個人的なつながりを作り出していきます。
金沢芽生会と五絆ソサエティーのパートナーシップは、地域の料理伝統が構造化された相互交流プログラムを通じて国際的な認識を得ることができることを示しているのではないでしょうか。
世界を巻き込むプロジェクトに
このプロジェクトが10年に入るにつれ、日本とアメリカの両方の料理景観を豊かにし続けています。日本料理にとって、このプログラムは東京や京都を超えた地域の多様性をアピールするチャネルを提供しているとも言えます。
アメリカのシェフにとっては、それ以外では接することが難しいかもしれない日本料理の哲学的・美的側面について本格的な洞察を提供することとなりました。
これらの交流は総合して、料理伝統とその文化的背景についてのより微妙なグローバルな理解に貢献しているのです。
金沢芽生会
金沢芽生会は、日本全国に約400名の会員を持つ全国芽生会連合の33の地域支部の一つです。この組織は東北・越、関東・甲信越、東海・北陸、近畿・中四国、九州の5つのブロックに組織されており、金沢は東海・北陸ブロックに属しています。
毎年、全国会議を開催し、地域間でローテーションを行うことで、会員間の情報交換とネットワーキングの機会を提供しています。
また令和7年1月より2年間、全国芽生会連合会の理事長をされているのが金沢の「金城樓」社長の土屋兵衛氏です。このことからも時代が金沢を求めているように感じます。
シェフ交換プログラムの他にも、金沢芽生会はさまざまな教育イニシアチブに取り組んでいます。彼らは小中学生に日本の料理技術や哲学について教えています。この教育的な活動は、伝統的な料理知識を保存し、次世代に引き継ぐという組織のコミットメントを反映しています。
五絆ソサエティー
五絆ソサエティーは、この文化交換におけるアメリカ側のパートナーとして機能しています。
日本の調理道具や食器を扱うコリン・ジャパニーズ・トレーディングの代表取締役でもある川野さおり氏によって設立されたこの組織は、アメリカにおける日本の食文化の重要な推進者として確立されています。
「五絆」(ゴハン)という名前は、日本語の「ごはん」(食事)と「絆」(つながり)の概念を巧みに組み合わせたもので、食を通じて文化をつなげるという組織のミッションを強調しています。
ニューヨークを拠点とする五絆ソサエティーは、シェフ奨学金や文化イベントなど、さまざまなプログラムを通じて、アメリカにおける日本の料理文化の理解と評価を促進する活動を行っています。